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バックナンバー(第14巻)

日向夏の未来を奪う研究?


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本勝 千歳 (農学部・植物生産環境科学科・准教授)


 私は果物の研究をしています。果物は私たちの生活に彩りを与え、豊かにしてくれます。皆さんは「日向夏(ヒュウガナツ)」という果物はご存知でしょうか?宮崎県原産のかんきつ(みかんの仲間)です。宮崎県以外では同じものが、「小夏」や「ニューサマーオレンジ」といった名前で売られていることもあります。日向夏は他のかんきつと違って、皮の内側の白皮部分に甘味があり、これと砂じょう(つぶつぶ)を一緒に食べるという特徴的な食べ方をします。


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日向夏は写真のように白皮の部分を残して切ります。果実の中央部に種子が
あれば、その芯の部分を除くように切り出します。

 この日向夏ですが、普通に栽培すると種がたくさん入ります。そうすると、どうしても食べにくくなったり、芯の廃棄部分が多くなってしまいます。このことから種の無い日向夏が消費者のニーズとなっており、宮崎大学では半世紀以上もの長年にわたって日向夏の種なしに関する研究を行ってきました。その結果、宮崎大学の研究によって開発された栽培技術によって、現在では、種のない日向夏や種の少ない日向夏を生産することができるようになりました。(これはまた機会があったら、お話ししたいと思います。)

 私が研究しているのは、この日向夏の突然変異体の‘西内小夏’という品種です。普通の日向夏は、自身の花粉では受精できない性質があり実を着けることができないので、ハッサクやナツダイダイといった他の花粉が必要です。しかし、‘西内小夏’は自身の花粉で受精することができて、しかもほとんどの種が退化して、種が少ない日向夏が勝手にできるという、生産上とてもよい性質を持っており、宮崎県でも導入が進んでいます。私は、この種が出来ない仕組みに興味を持ち、受粉試験をしたり、花粉を調べたりして、どうして種が退化するのかを調べてきました。すると、花粉の中に他の花粉より一回り大きい花粉がいくらか含まれており、これが受粉すると種子が退化することが分かってきました。この花粉は、学術的な用語では非還元花粉と呼ばれるもので、普通の日向夏には見られず、‘西内小夏’にのみ見られる特徴であることも分かりました。



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左 :‘西内小夏’の花粉。矢印で示しているのが、非還元花粉と呼ばれる、通常の花粉より一回り大きい花粉。
中央:日向夏にハッサクの花粉をかけたときの種子の内部。ハートの形をしているものが胚でこれが将来植物体になります。
右 :‘西内小夏’の非還元花粉が受精したときの種子の内部。胚の形が異常で、これはこのまま退化していき、種子も痕跡程度にしかなりません。

 そして、この非還元花粉を利用した、種無しになる新しい品種を作ろうとしています。花粉は減数分裂してできるので、通常の花粉はゲノムと呼ばれる遺伝子のセットを一つしか持っていません(これを半数体といいます)が、非還元花粉はゲノムが二セット含まれます(これを二倍体といいます)。これが雌しべの中の卵細胞(卵細胞も減数分裂によってできるので半数体です)と受精すると、できた種子はゲノムを三セット持った三倍体となり、このような種子は正常に発育することができません。実は、これが‘西内小夏’の種が退化するメカニズムなのですが、この種子を植物の生育によい培地の中で育ててやると、まれに植物体として成長することがあります。このような植物をこのまま大きく育ててあげるといずれ花を着けますが、正常な花粉や卵細胞を作ることができないと期待されます。ということは、種を作る能力が全く無い植物になり、種無し果をつける品種ができるのではないかと考えています。これは種なしスイカの作り方と同じ原理です。


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試験管内で育成されている新たな植物体。これをうまく成長させてやることができれば、種無しの新しい品種ができるかもしれません。

 さて、紹介してきた研究をふりかえると、種ができない仕組みを研究したり、種無しの植物を作ろうとしたりと、なんだか日向夏の未来を奪うようなことばかりしていますね。種子は植物にとっては子孫を残すために重要なものですが、人間にとってはときに果物を食べにくくしているものとして敬遠されます。私のやっている研究は、日向夏には本当にいい迷惑な話かもしれませんが、「人に好かれる果実を作るためには仕方ないんだよ、ごめんなさい」と、日向夏に心の中で謝りながら、日々研究を行っています。




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