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バックナンバー(第16巻)

微生物の99%以上は謎


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井上 謙吾 (農学部・応用生物科学科・准教授)


 「微生物」と聞くと何をイメージしますか?多くの皆さんは、「バイ菌」ではないでしょうか。確かに我々に悪さをする微生物は多様で、ときに人命に関わるので、医学分野でも重要な位置づけとして研究されています。しかし、私達のお腹の中には、およそ100兆個(英語では「cells(細胞)」が単位として使われますが、「匹」と言ってしまう人もいます。微生物学者として、気持ちはよくわかります)もの微生物が生活しています。正確な数はともかく、沢山の微生物がお腹の中にいることは良く知られているのではないでしょうか。だとすると、微生物は極めて身近な存在(むしろ一部)で、そのほとんどは「悪い奴」ではないことは容易に想像がつきます。我々自身では作れないビタミンを作ってくれたりする「いい奴」もいるのです。そもそも微生物は目に見えない生き物なわけですが、目に見えないがために、研究するうえでいろんな苦労があります。本当にいるのかいないのかわからないという作業的な苦労はもちろんありますが、意外に知られていない、より根本的な難点があります。それは、「世の中にいる微生物の99%以上が培養できない」ことです。培養できないということはつまり、人工的に作った培地で増えない≒研究がものすごく困難、ということです。では、培地中で増えないで何をしているのかというとその多くは眠っています。生きているけど数を増やさない。あるいは非常に増殖速度が遅いということです。顕微鏡で数を数え、培地で培養させてみればすぐに分かるので、この事実は昔から知られていたことです。近年の技術の進歩で簡便かつ迅速、安価にDNAの塩基配列が決定できるようになったので、自然環境中のあらゆるサンプルから微生物のDNAを抽出し、塩基配列をひたすら読みまくって解析しました、という報告が多数存在します。もちろん、これまで知られていなかった塩基配列情報が明らかになり、大きな進歩もありましたが、やはり塩基配列がわかってもそれが意味する情報、つまり遺伝子の機能についてまでは、相変わらず謎だらけです。
 長くなりましたが、実はここまでが前置きです。99%の微生物が謎、それらが持つ遺伝子の機能も予測すらできず、ほとんどが謎。これを聞いてワクワクしませんか?だって「人類にとって有益な遺伝子がまだまだ眠っている」と解釈できますよね。製薬、物質生産、エネルギー生産、環境浄化、微生物を利用する産業は沢山ありますが、自然界中にはまだまだ有用な微生物・遺伝子資源が眠っているはずで、その研究は宝探しのようなものです(図1)。そんなモチベーションが基礎となって、私は微生物の能力を利用したエネルギー生産と環境浄化について研究を行っています。「発電菌」と呼ばれる微生物は有機化合物を分解してその代謝の過程で出てくる電子を電極に渡すことができるので、電池になります(図2)。微生物燃料電池は下水や畜産廃棄物など、有機物が多く含まれている廃棄物を浄化(有機物の分解)しながら発電することができます。つまり、水を綺麗にしながら発電もできるという環境に優しい技術です。ですが、発電菌はどうして発電できるのか?という点については、やはり謎が多く残っています。私の研究室では、その謎を解き明かすことを目的に研究を行っており、発電メカニズムが明らかになれば、より高性能な微生物燃料電池が開発できると考えています。また、宮崎県で多く発生する畜産廃棄物や焼酎粕を燃料にして発電する微生物燃料電池の開発も行っています(図4)。環境浄化については、酸素のない環境でも環境汚染物質を分解できる微生物を探索しています。自然環境中で土を数センチ掘っただけで酸素が非常に少なくなりますが、環境汚染物質はそのような環境でも広がって行きます。有用な分解菌を自然界から獲ってきてその能力を環境浄化技術に利用できればと考えています。


 
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 先ほど述べたとおり、最近はDNAの塩基配列決定技術の進歩でデータベースが溢れています。しかし、遺伝子一つ一つの機能を解明しなければその情報の価値は低いままです。未知の遺伝子の機能を解き明かすことができればその情報の価値が上がり、しかも世界中で共有されます。こういった作業は我々研究者、特に基礎研究を行える立場である大学の研究者の使命の一つと考えています。私の研究室では、一般的な培養方法では生育しない微生物を無理やり分離・培養し、目的に見合った能力を持つ株を1株ずつ研究しています。細菌1株につき何千もの遺伝子を持ちますから、やるべきことは無限にあります。

 

 
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