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のうがく図鑑



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バックナンバー(第18巻)

    新しい牧草を創る!







    石垣 元気 (農学部・フィールド科学教育研究センター(住吉)・特任助教)



     大学生になって、胸を躍らせた初講義、“ウシは4つの胃を持っている”ということが私には衝撃でした。それまで、そのことを知らなかったのです。牧草の研究をしたいと、農学部を選んだのに。周りの友達は結構知っていましたが、私は別に気にしませんでした。むしろ、4つもの胃をどう使うのか不思議でしょうがなかったのです。
     一方、その頃、ダンスサークルに入ったばかりの青春真っ盛りだった私は、どうやったらクールに踊れるのかに夢中でした。マイケルジャクソンの十八番“ムーンウォーク”を毎晩練習し、翌朝の8時40分から “家畜”や“牧草”についての講義を、眠気と戦いながら聞いていました。
     それから十数年、今取り組んでいる研究テーマは“新しい牧草を創る”こと。私がこの研究テーマに出会ったのには、3つのターニングポイントがありました。
     1つ目は中学生の頃。私の祖父は本業の他に、マンゴーやグァバなどの熱帯果実の栽培をしていました。その頃の私は、週末に剪定や草払い機での除草作業を手伝わされたものです。その中で、植物を育てることの面白さを知ったのだと思います。
     2つ目は研究室(草類育種学)に在籍していた頃。大学3年からポストドクター(博士取得後の研究職)までの十数年にわたり、草類育種研究(牧草の育種)の“いろは”を学びました(現在も)。私は、遺伝子組換え法による育種法(図1)で学位を取得したのですが、エンブリオジェニックカルスを誘導することには苦労しました。(暖地型)イネ科牧草の細胞壁は厚いため、パーティクルガン法という物理的な方法で遺伝子を導入します。その際、標的組織として主に用いられるのがエンブリオジェニックカルスです。エンブリオジェニックカルスを誘導するのに1年以上かかりました。


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    図1 パーティクルガン法による暖地型イネ科牧草の遺伝子組換え法。パーティクルガン法はタングステンや金などの金属微粒子にDNAをコーティングしたものを、真空条件とガス圧によって高速で射出して細胞内にDNAを導入する遺伝子導入法である。

     3つ目は現在所属している住吉フィールド(牧場)での研究の日々。住吉フィールドでは、肉用牛、乳牛、豚を飼養管理しており(写真1)、“宮大Beef”、“宮大Milk”などを宮大ブランドとして生産販売しています。さらに家畜に必要な飼料(牧草やトウモロコシ)も自給生産しています。フィールドに出ることで、いろいろなことに気づかされます。牧草と雑草の競合(写真2)、収量性、収穫した牧草の乾燥速度(写真3)、栄養価、消化性などの特性は、牧草の種類によって違ってきます。これらの特性を調査し、交雑育種(一般的な育種法)によって向上させることが、今の私の研究テーマです。


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    写真1 住吉フィールド内で放牧されている乳牛

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    写真2 牧草の播種から1週間目の様子。牧草の他にも雑草の出芽も確認できる。この時から、牧草と雑草の競合が始まる。

    写真3 牧草の乾燥作業の様子。乾燥の速さは、気温や湿度に大きく影響される。


     面白いのは、牧草の種類や乾草、サイレージの出来上がりの状態によって、ウシの食いつきや、残飼量(食べ残しのこと。写真4)が違ってくること。人間と同じでウシにも食の好みがあるんじゃないかと思っています。



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    写真4 飼槽の中にある残飼は、牛が食べ残したもの。ウシは硬い茎の部分のみを残している。

     私には、この3つのターニングポイントがあり、先生方や、周りの先輩や同級生、後輩の学生たちがいてくれたおかげで、今、ここ住吉フィールドで研究の日々を送ることができています。
     これから大学進学を目指す君たちにも、本当に目指すもののために、進んでいけることが素晴らしいことだと感じて欲しいです。


     

     
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