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バックナンバー(第29巻)

植物を創るレシピ


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 平野 智也 (応用生物科学科・准教授)


 タイトルからは「料理に関する研究?」と思うかもしれませんが、私は新しい植物を創る、いわゆる育種・品種改良に関する研究を行っています。新しい植物を生み出す手順は、料理に似ていると思っています。まず目標を立てます。今日の夕飯は何を作ろうかな=どんな植物を目指すのか。そのときに色々な状況を考えますよね、最近太ったから脂っこいものは避けようかな=この品種を栽培する時には○○な問題が発生しているな、といった具合です。新しい植物を創るためのレシピは、農学部の先生方が様々な部分を深く掘り下げていますが、私が対象としているのは“食材の保存”と“調理法”にあたります。

 育種には、親として使用する素材が非常に重要です。美味しい料理には、食材の善しあしが重要ですよね。遺伝子組換えなど様々な“調理法”が開発されていますので、植物育種の素材は自然の中に無数に存在していると言えます。しかしながら、最近では絶滅危惧種という言葉をよく耳にするように、将来価値を持つかもしれない素材(遺伝資源)が無くなろうとしています(図1)。私は、貴重な素材を将来も使えるように半永久的に保存する方法を開発しています(図2)。

 
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図1 インドネシアの山中で撮った写真。この中に絶滅危惧種が含まれています。この山は開発が計画されているそうで、貴重な遺伝資源が全て失われる危機にあります。 図2 液体窒素を用いた絶滅危惧植物の超低温保存の様子。

 “調理法”といっても多種多様な方法がありますが、私は素材自体の隠れた魅力を引き出す方法を使っています。伝統的な方法といえる突然変異育種法に、原子核(イオン)を光の速度の数割まで加速して得られる重イオンビームという“秘伝のスパイス”を利用することで、これまで見つけられなかった植物の隠れた魅力を引き出すことができます。この“スパイス”を利用する方法は、世界に向けて発表していますので秘伝ではありませんが、日本が世界に先駆けて実用化したものです。私は“スパイス”の特徴を上手く利用して、花の大きさの制御や種子を作る仕組みについて研究を進めています(図3、4)。私が理想とするレシピの完成までにはまだまだ多くの課題がありますが、改良に改良を重ねて一歩でも近づきたいと思っています。


 
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図3 重イオンビーム照射によって得られた花が大きくなる突然変異体。たった1つの遺伝子の働きで、これだけ大きさが変わります。 図4 花粉管からの精細胞の単離。花粉は花粉管を伸ばすことで、精細胞を子房内の胚珠に届けます。重イオンビームを照射した精細胞が受精するまでにどう振る舞うのか、精細胞を花粉管から取り出すことで、より詳細に解析しています。

 最後になりますが、研究においても料理においても、発想の転換・ひらめきが必要だと思います。残念ながら、私の場合1人で考えている時に突然何かをひらめくということは、まずありません。色々な人と議論をする中でアイデアが生まれます。刺激をくれる仲間、分野の違う方々との交流が大切だと改めて感じています。





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