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のうがく図鑑



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バックナンバー(第35巻)

「環境保護と地域発展との両立をデザインする」


MITSUDAT








 光田 靖 (森林緑地環境科学科・教授)



農学というと、いかに農作物の生産効率を上げるのかを研究する学問というイメージが強いかもしれません。一方で、農学はいかに自然と共生するかを研究する学問でもあるのです。環境保全と経済的な発展を調和する「持続可能な開発」という言葉は、将来の社会を考えるうえでのキーワードになっていますが、この「持続可能な開発」を実現することが農学の大きな目標の一つであるのです。様々な生き物がどのような環境でどのように生活しているのか、生態系の中で水をはじめとする様々な物質がどのように循環しているのかといった生物と環境の知識にもとづいて、自然を破壊することなく「持続可能な開発」を実現するためにはどうすればよいのかという難問に挑むのが農学なのです。環境保護と地域発展の両立は非常に難しい問題で、私たち研究者はいつも厳しい現実に直面します。しかし、持続可能な開発を実現し、豊かな自然環境と安全・快適な生活を次の世代に引き継ぐことは、現代を生きる私たちの責務であり、そのための研究はとてもやりがいのあるものなのです。


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図1 里山の景観は自然と人間の生活が調和した好例です。


環境保護と地域発展の両立を実現するための研究とはどのようなものであるのか、森林科学の分野から私の研究を紹介します。持続的な開発を実現するためには、自然生態系から受ける有形・無形の恩恵(生態系サービスと呼びます)を活用することが不可欠です。様々な生態系サービスの中で農業と最も関連が深いのが、昆虫による花粉の媒介であり送粉サービスと呼ばれます。世界中の農業生産における送粉サービスの貢献を評価すると20兆円になるとの試算もあります。私たちの研究室では綾町の日向夏を対象として、この送粉サービスと周囲の森林との関係を研究しています。

日向夏の花が咲く4月下旬から5月中旬まで、日向夏農園で日向夏の花にやってくるミツバチの数を数えました。次に、その日向夏農園の周りにどのような森林があるのかを、航空写真をもとに地理情報システム(GIS)を使って解析しました。その結果、周囲に天然林が多いほど、日向夏の花を訪れるミツバチの数が多いことが分かってきました。天然林はミツバチにとって巣を作る生息地になるので、天然林を保全することは日向夏の栽培にとってプラスの効果をもたらすことになると言えそうです。さらにこの研究を利用して、どの人工林を天然林に再生するのが日向夏栽培に効果的であるのか、環境保護と地域発展とを両立する景観をデザインしてみました。ユネスコ・エコパークに認定された綾町では、スギ人工林を伐採した後、照葉樹林に戻そうという取り組みが始まっています。照葉樹林再生を送粉サービスの観点からデザインすることが、環境保護と地域発展の両立につながるのではないかと考えています。

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図2 日向夏農園でミツバチを数えます。


図3 航空写真を使って日向夏農園(中央オレンジの点)周囲の土地利用図を作成します。灰色の部分が天然林です。航空写真は宮崎県にご提供いただきました。


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図4 赤い濃い部分が日向夏栽培にとって天然林へと転換するのが効果的なスギ人工林です。 図5 調査にご協力いただきた農園で日向夏の収穫をお手伝いしました。


我々の研究は自然生態系が対象で、思うように調査が進まなかったり、考えていたような結果にならなかったりすることが多々あります。それでも環境保護と地域発展の両立を目指す研究はやりがいのあるものです。この記事でこのような農学の一面を、みなさんに知っていただくことができれば幸いです。




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