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バックナンバー(第36巻)

「魚の健康診断」


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 河野 智哉 (応用生物科学科・准教授)



 皆さんの食卓にのぼる「魚」は、どのように生産されているのでしょうか?沿岸や遠洋などで行われる漁獲漁業や、水槽や生簀で飼育する養殖漁業など、その供給源は様々です。近年、魚介類の資源量は世界的に減少し、漁獲漁業による生産量は落ち込んでいます。一方、養殖漁業(写真1-A)による生産量は、世界的に年々増加しています。しかしながら、この生産を妨げる一つに「魚の病気=魚病(写真1-B)」があります。対策として、魚用のお薬が使用されていますが、食品としての安全性を考えると、その使用量は極力少ない方が良いのは当たり前です。しかしながら、効率的な生産を行うためには、時には薬の使用が必要となります。このむずがゆい状況を打破するためには、「魚が病気にかからなければ良い」と安直な答えが浮かびますが、何が潜んでいるか分からない海川で生きている魚、この回答を現実のものとすることは困難です。そこで私は、我々が学校や職場で受ける「健康診断」の魚版を作れば、養殖漁業における魚の健康が管理でき、魚病の発生を未然に防止または軽減できるのではないかと考えました。

 
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写真1 養殖風景と魚病
A:給餌の様子、B1:ヒラマサのべこ病、B2:マダイのエドワジエラ症


 健康診断法を作る初期段階で、「何を指標に?」・「検査する組織は?」など、いくつかの「?」にぶつかりました。前者については、体調が悪い時や病原体感染時など、体内で迅速に応答する分子と考え、「サイトカイン」と呼ばれる免疫調節分子を指標とすることにしました。しかしながら、哺乳動物と比べ、免疫調節分子についての情報が少ない魚では、探索作業から始める必要がありました。様々な手法で探索を進め(詳細な説明は省略しますが)、19種類のサイトカインを指標とすることにしました。続いて、サイトカインの体内挙動を、迅速に(一度の検査で)調べる方法の構築に取り組みました。約2年を要しましたが、無事に方法を確立できました。次に、この方法を用い「検査する組織」についてです。できるだけ簡便で、魚を殺さない方法が良いと考え、「血液(血球)」をサンプルとすることにしました。
 健康診断法として使えるかどうかの確認は、病原細菌に感染した魚と、健康な魚の組織を観察することから始めました。感染魚において、いくつかの組織に変化(脾臓の腫大化や肝臓の充血)が認められましたので(写真2)、次に、血球におけるサイトカインの発現量を測定し、健康魚と比較してみました。その結果、感染魚と健康魚の間には明確な発現パターンの違いが確認されました。具体的には、炎症反応を制御するサイトカイン群の発現が、病原細菌の感染によって強く誘導されることが確認されました(図1)。この結果から、構築した方法が魚体内の免疫状態を知るツールになることは分かりましたが、まだまだ情報が不足しています。今後は、細菌以外の病原体感染やストレス負荷時に、どのような応答が見られるかを調べ(写真3: 実験の様子)、サイトカインの発現パターンから魚類の健康状態を把握できる管理技術にしていきたいと考えています。最終的なゴールは、養殖現場に技術を応用することですが、まだ時間がかかりそうです。目標を達成するまで、頑張りたいと思います。

 
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写真2 健康魚と病原体感染魚における組織の観察
A およびA’:脾臓 (感染魚で腫大)
B およびB’:肝臓 (感染魚で充血)

 
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図1 病原細菌感染魚および健康魚におけるサイトカイン
(19種類)の発現パターン
赤:感染魚 / 青:健康魚
写真3 実験の様子






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