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バックナンバー(第38巻)

「世界の畜産現場から」


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 安在 弘樹 (畜産草地科学科・助教)



 みなさん、海外はお好きですか?私は大好きです。日本ではみられない物事や光景に出合ったとき、わくわくします。今回は、これまで私が研究を行ってきた海外の家畜生産現場について紹介したいと思います。

 まずは私が学部生のころから調査を行ってきた中国雲南省昆明市について。雲南省は中国の南西部に位置し、省都である昆明市は人口600万人を超す大都市です。市内には琵琶湖の半分ぐらいの大きさの湖、テン池(写真1)があり、湖の南東岸地域は一大農業地域となっています。そこでは見渡す限りのビニールハウスが広がっており(写真2)、色々な種類の野菜や花が周年で栽培されています。近年、テン池では周辺地域の開発による深刻な水質汚染が問題となっており、農業由来の窒素やリンなどの栄養素の水系への流出もその一因ではないかと考えられています。

 
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写真1 テン池の様子。富栄養化によりアオコが発生して水が緑がかっています。    写真2 調査地のビニールハウス群。



 ここではウシ、ブタ、トリなどの家畜が飼われており、この地域の家畜生産に関わる栄養素の流れを調査することが私の研究テーマでした。農家さんを訪問し、聞き取り調査をしたところ、家畜の飼い方は基本的には日本と似ていたのですが、大きく異なる部分もありました。近場で安い餌をもらってきて餌代を節約したいという畜産農家の気持ちは万国共通で、例えば稲作地域では稲わらをウシにあげますが、この地域では野菜と花のくずや規格外品をウシやブタに与えていました(写真3)。ブロッコリー、セロリ、パセリ、白菜、カーネーションなど…動物が食べるものならなんでもあげます。ウシの場合、1頭に1日50 kgも与えることも!この辺の勢いになんとなく中国らしさを感じました。

 
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 写真3 白菜(a)やパセリ(b)を与えられて食べるウシ。


 地場産の餌を与えることは農家のお財布事情以外にもメリットがあり、本来なら焼却されるか畑に鋤き込まれる栄養素が動物に餌として利用され、糞尿が堆肥として再び畑に還元されることで、地域内の作物生産と家畜生産の間で栄養素が循環する役目を果たしています。ただ、地域外から持ち込まれる化学肥料や餌に由来する栄養素の量が多すぎて、作物や家畜はそれらを有効に利用しきれず、余ってしまった栄養素が水系に流出してテン池の水質汚染に寄与してしまっています。
 また、野菜や花をこんなにたくさんウシにあげて大丈夫?と思う方もいるかもしれませんが、もちろん大丈夫!とは言えません。一部の野菜は茎や葉に硝酸塩を多く貯めるため、それをたくさん食べてしまったウシは硝酸塩中毒になってしまいます。ウシの血液や餌を分析したところ、そこまで危険な状態のウシはいませんでしたが、与える野菜の種類と量には注意が必要です。セロリやブロッコリーが多い日はかなり危険です…。

 続いてネパール・ヒマラヤ山麓のヤク牧畜について紹介しようと思っていたのですが、中国の話が長くなってしまったので、またの機会に(こちらの方が今の研究との関連は高いのですが)。1つの地域だけの紹介になってしまいましたが、海外の畜産現場の面白さ、そこで研究する魅力がみなさんに少しでも伝わったら幸いです。海外での調査は、研究そのものだけでなく、現地の大学や農家さんとの交流、珍しい食べ物(写真4)も醍醐味の一つです。

 
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写真4雲南省グルメ。名物のヤギチーズ(a)。砂糖をまぶして食べる。鯉の火鍋(b)。花椒が効いていて口が痺れる。虫の素揚げ(c)。美味しい。

 今後は、住吉フィールドをはじめ、畜産現場が近くにたくさんある宮崎の恵まれた研究環境で新しい分析手法を自分のものにして、また海外でも研究を行っていきたいと考えています。興味を持ってくれた方がいたら、ぜひ一緒にやりましょう!





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