ホーム > のうがく図鑑  第41巻「木に化ける」仕組みにせまる!

のうがく図鑑



のうがく図鑑


バックナンバー(第41巻)

「木に化ける」仕組みにせまる!


TSUYAMAT








津山 濯 (森林緑地環境科学科・助教)



 みなさんのすぐそばの植物。そう、その植物は今日も「木に化ける」ことを一生懸命しているかもしれません。

1
図1 道端の雑草やスーパーで売っている豆苗も「木に化ける」

 世界には何千年も生きる樹木が存在し、切り倒されてからも千年以上も木造建築物等として維持するものも存在します。木が長生きし、長持ちする驚異的な力には、実は「リグニン」と呼ばれる物質が関係しています。リグニンは木に特に多く含まれる細胞壁成分で、植物がリグニンを合成することを「木化(もっか)」と呼びます。そう、「木に化ける」のです。
 樹木はリグニンのおかげで大きな樹体を支えることができ、微生物や虫などに分解されにくくもなります。そしてリグニンのおかげで、地中の根から時に100 mを越す樹体の先端まで、効率よく水を運ぶことができると言われています。

2
3
図2 ポプラの木部組織。リグニンを赤紫色に染めている 図3 A、豆苗の根。B、豆苗の根の顕微鏡像。リグニンを赤紫色に染めている。矢印:水の通り道である道管


 実は木だけでなく、全ての維管束植物が「木化」しています。コケなどリグニンを持たない植物は水気の多い所でしか生きられませんが、リグニンを獲得した維管束植物は根を伸ばし地中深くの水を利用することで、陸上の様々な環境で生育できるようになりました。リグニンのおかげで陸上に広く植物が分布し、リグニンのおかげで、私たちヒトも含めた陸上動物が繁栄していると言っても過言ではありません!

4
図4 様々な環境で植物は繁栄している

 リグニンは現在ますます世界で注目が高まっています。それは持続可能な資源であるバイオマスを活用する際にリグニンが鍵となるからです。細胞壁の糖成分を利用する際にはリグニンが邪魔になります。その一方で、リグニンは石油に代わる芳香族原料として活用が模索されています。リグニンの生合成メカニズムを解明し、リグニンの量や質を調節することで、木質バイオマスのさらなる有効活用が可能になると期待されます。


 私は樹木やタケ、シロイヌナズナなど、植物がどのように木化するかを研究しています。木化には、リグニンモノマーの細胞内での生合成、細胞内から細胞外への輸送、細胞壁での重合の3段階がありますが、このうち輸送に関してはほとんど分かっていません。そこでリグニンモノマーの輸送メカニズムを解明しようと実験をしてきました。
 詳細は省きますが、私が樹木を使って明らかにした輸送メカニズムは、シロイヌナズナの葉で報告された輸送メカニズムと異なるものです。私の結果から考えられるモデルは国際学会で発表してもなかなか信じてもらえません。私自身、別のよりシンプルなモデルだと思っていたのですが、何度実験してもそのような結果は得られていません。シロイヌナズナの葉には木化する細胞はごくわずかしかありませんので、木化を活発に行う樹木とはメカニズムが異なる可能性があります。樹木での輸送メカニズム解明に向けて、現在も実験を進めています。

5
6
図5 シロイヌナズナ 図6 国際学会にて

 研究で明らかにしようとするものは、何が正解か誰も分かりません。今皆が信じている説も、数十年後には全く違う解釈になっている可能性もあります。自然を見つめ真実を求めるときには、皆が平等であると私は考えています。中高生、大学生のみなさんが生み出すアイディアの方が、世界の誰よりも真実に近いかもしれません!
 何が真実か誰も分からない中、自然を丹念に見つめ続けることで、真実に近づき自然の美しさや巧みさにせまるワクワク。そうして見つけた自然の物質や構造、仕組みを生かし、私たちの生活を豊かにする可能性に挑戦できるドキドキ。これが、研究の喜びなのだと思います。
 みなさんも一緒に自然の秘密にせまってみませんか?





このページの先頭へ